お題

むくろならべ（リューマとモリア）

ご主人、あなたは私を含め、
そんなにもあなたにまつろう命に囲まれているにも関わらず、
何だかとってもひとりのようだ。
あなたをそんなにもひとりのこどもにする、
あなたの内の大きな夜。
あなたの上に訪いた、
うるみ色のその孤独。
それが如何様のものなのか、
私などにはおしはかる術もありますまいが――

…ヨホホ。
ご安心を、わがご主人。
あなたにさやかな影を頂いたあの日から、
無限に住まうこの身です。
せめていついつまでも、あなたのお傍におりましょう。
…そうですさやかな影のよに。

あなたのヒーローになりたい（サーキースとベラミー）

あいつはおれのヒーローだったずっとあの背中を見ていたあの背中があれば安心だったあいつの隣に立つのが好きだったいつだって膝をつくことなく圧倒的に敵を沈めるその強さにあこがれたそしてあいつは炎の様なあの男にあこがれていた決してつかむことのできない炎の様なあの男…今おれの手はとても冷たく感覚がなく赤い何かで濡れていて目の前にはあいつの背中がある故郷の海のような青をしたコートは今や何故だか殺したての羊の血のような赤にまみれている感覚のないおれの手がアルレッキーノの様な大げさな動きであいつの背中に降り下ろされたあいつの手はあの男にのばされているおれもあいつもあこがれていた背中はもう見えない。

おれがお前のヒーローであったなら、
お前はおれに手をのばしてくれたかい？

夜にお逃げよ（モリア）

おもちゃのお城を抱きしめながら、
わたしはこわごわ、わたしの夜をのぞきこむ。
夜はかわらずそこにあり、
そしてわたしは安堵する。
よかった、わたしはまだひとりだと。

あるいは罪人の余話として（海賊が話す、Tボーン大佐の話）

その人は傷ついていた。ぼろぼろだった。血にまみれていた。
しかしあの時あの瞬間、
血まみれのあの手よりもやさしいものなど、
すくなくとも世界には存在しなかった。
この私などにさしのべてくれた、あの偉大な手。
その人の手のやさしさと、ゆうづつのような魂は、
私を二度とふたたびくらやみへとたちかえらせはしなかった。
私は真実うつくしい人間と出会った……

昔海賊であった男は、そこで少しの間くちをつぐんだ。
そうして檻の向こうの海兵を、不思議に澄んだ瞳で見つめた。
男は今、かつて自分をこの檻へと送った人物の話をしている。
海軍との戦いの末に崩壊した巨大な海賊船、その下敷きになった自分を、その身を賭けて救ってくれた海兵。
かの人物は男をこの檻へと送りはしたが、救いもしたのだ。肉体的な意味でも、また精神的な意味でも。
今檻の向こうに居る海兵は、男の話す人物の部下であった。
男はその海兵の中にも〝彼〟の存在が強く息づいているのだという事を、海兵の凛とした輝きを放つ眼差しから感じ取っていた。
〝彼〟の高潔な魂の輝きは、その周囲の人々にも誰であろうとおしみなく分け与えられる。この己のように。
「…おれァやっと解ったよ。
　クズみてェなおれだけど、
　照らしてくれるもんがありゃあ輝けるんだと」
男の声は静かであったが、神父の祈りのようなおだやかな強さを持っていた。
じっと男の話を聞いていた海兵は、誠実さをもって頷いた。男はその頷きを受けて少しだけ微笑んで、これまで誰にも話さなかったことを口にする。
「神さまっていると思う。
　おれはあの人の中に、神さまのかけらを見たよ」

ささやかな永遠の思い出（ラキさんとアイサとワイパー）

あの人の手がアイサの頭を撫でた。
やわらかな花びらでつくったお城、つまりとてもとても壊れやすいものを触るときのようなやり方で、あの人の手がアイサの頭を撫でた。
その仕草は驚くほど不器用で、同時に嘘みたいにやさしかった。
あたしは今まであの人のそんな仕草を見た覚えがなかったので、あの人の腕の包帯を巻きなおす手を思わず止めてしまった。
アイサは少しぶすっとした表情で（この子が照れた時の表情だという事を、あたしはちゃんと解っている）、撫でられた頭にそのちいさなてのひらを重ねた。そしてちいさな声でまた尋ねた。
「ほんとにもう大丈夫なの？ワイパー。だってさ、あんなに〝リジェクト〟を…」
あの人は答えた。「死ぬならとっくに死んでるさ」それからアイサをじっと見て、「お前、ラキに髪切って貰ったんじゃなかったのか？」その言葉にアイサは目をぱちぱちと瞬かせて、それからまた照れたように、あの人の隣に座っているあたしの首に抱きついて言った。「ラキがね、髪のばしなさいって言うんだよっ！」
「だって、この子達はもう戦わなくていいんだから」
傷だらけのあんたのようにはと心の中で呟いて、包帯を巻き終わったあの人の腕を、あたしは少しの間だけ自分の手で包んでいた。
その手をそっと離して、からかう気持ちで言ってみる。「ワイパー、あんた、前はそんなことに気付きもしなかったのに」
あの人は眉間に凄まじい皺を寄せて、急に今日の空の色に激しい興味を覚えたかのように、遥かの空を凝視した。あの人が照れた時の表情だという事を、あたしはちゃんと解っていた。

お題配布元：ヨルグのために

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