誰がコマドリ殺したの。
「さようなら、Mr.0」
「もう行け。これ以上ここにいる必要もねえだろう」
「…そうね。そうだといいわね」
「違うだろう。おまえには知りたいものがある。そしておまえはそれを知れる」
「私と同じね」
「全てが」
「全てが?」
「…欲しくなかったんじゃない。欲しいと思えるものがなくなっただけだ」
「あなた本当はなにも欲しくなかったんでしょう」
あなたの心に何があるの。
何も信じていないくせに、誰よりも人の気持ちを知っている。
「何だと?」
「別に…どうしてここまで他人の想いを利用できるのかしら、って言っただけ」
「利用されるようなくだらねぇ感情を持っている奴らがバカなのさ。そして、この国にはバカが多い。
そんなモノ、全て捨てちまえばいいものを」
そう言って低くわらったあなたに聞いてみた。
「そういう人間を見捨ててきたの?」
「山ほどな」
「つらかったでしょうね」
あなたに聞こえないように呟いた。そんなこと、言うつもりは全くなかったのに。
あなたの笑い顔が、酷く痛々しくみえてしまったから。
誰も信じれないのは、悲しいことじゃない?あなたも多分知ってるのでしょうけど。
砂漠はこんなにもあついのに。どうしてあなたは冷たいの。
あなたの肌を感じるたびにそう思う。
冷たい肌、冷たい唇、冷たい眼。
あなたの心に何があるの。
知りたいと思うのに、あなたはそれを許さない。私はあなたのこと、何も知らないと気付かされた。
「記されていないわ」
あなたに少し意地悪をしてみたくなった。
「ここには歴史しか記されていない」
あなたは私になにも教えてくれなかった。だから私も教えてあげない。
「”プルトン”なんて言葉は一言も出てこなかった…」
私の知りたかったこと。この国は教えてくれない。昔からそう。この国のせいで私達は―――
「全てを許そう ニコ・ロビン」
私を貫いたあなたの爪は、やはり冷たい。
その冷たさと、血のあつさとが混じって。
一瞬、世界が無音になった。
そのなかで、あなたの声が奇妙に低く響いた。
「なぜならおれは…最初から誰一人」
徐々に音が戻ってくると同時に、今度は色が失われていく。
「信用しちゃ……いねェからさ」
おかしなひと。
許すことと信じることは同義語なのに。
そして愛することも。
まっくらやみ。
まるであなたの心みたい。
無であるゼロ。始まりと終わりの全てがここにある。
そしてあなたはそこにいる。
何もできずに。どこへも行けずに。涙も流せずに。
冷たい雨をこの身に受けて、私は天を仰いだ。
雨すら、あのひとよりもあたたかい。
愚かと思いながらも、天に祈りを捧げてみた。
「…………さようなら、Mr.0」
別れの言葉を小さく呟き、私はひとり歩き始めた。
「私が私である為に」
「何の為に」
「目的を果たすまでは、私をニコ・ロビンと呼ばないで」
「何だ」
「ひとつ約束事があるわ」
「……フン、いいだろう。乗ってやるぜ、ニコ・ロビン」
「べつになにも。私は歴史を知りたいだけ。その場所へ私を連れて行ってくれればいいの」
「何が望みだ」
「遥か東の砂の国へ。そこにあなたの求めるものがある」
「欲しいものだと?」
「私が誰であるかは関係ないわ。肝心なのは、私はあなたの欲しいものを持っているということ」
「…おまえは……ニコ・ロビン、か…?」
「初めまして、サー・クロコダイル」
どうかあのひとがしあわせになれる時が訪れますように。
☆なじ☆
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