海賊って結構良くない? あたしも海賊やる前までは汗くさそーだしメンドくさそーだしで全然いいとか思ったことなかったんだけどね。 なってみたら意外にっていうかかなりハマる。 だって、他人が稼いだカネとか横取りして、好きに遊んだりできるってサイコーじゃない? ま、海軍につかまったり他の海賊にどうにかされちゃうって危険もあるけど、あたし達がそんな心配すんのはキユウってモンよね。 だってあたし達の船長のベラミーってば、懸賞金5500万の大型ルーキー! ベラミーってあたしとふたつしか年違わないのに、超凄くない? 副船長のサーキースもそれなりに強いし。このふたりがいれば、絶対そこらの海賊になんか負けたりしないわ。 海賊やるって家飛び出した時は散々言われたけど…今の世界は正に大海賊時代。 他のみんながやってることなんだから、あたしもやっていいじゃない? 大体海賊やりたいのはあたしなんだから、なんで親にぐだぐだウザイこと言われなきゃいけないのよ。 あたしは自分のやりたこと自分で決めたんだから。 さってと!今日も楽しく海賊しようっと♪ 「サーキースのバーーーーカ!!!!アンタなんかもう知らない!!!!!」 自分でもよくこんな声が出るなって思うぐらい大きな声であたしはそう叫んで、自分でも今のはちょっとマズかったかなってぐらい大きな音をたてて扉を閉めた(ていうかたたきつけた)。 扉の向こうでサーキースが何か言ってたけど、あたしはとっととサーキースの部屋から離れた。 どかどかと足音をたててデッキの上を歩いていく。もう夜中でみんな寝てたけど、あたしはそんなことおかまいなしに、階段も大きな音をたてて上った。 あーもうムカツク!!ムカツク!!アイツほんッとーにムカツク!! 「…おい、夜中なんだからもう少し静かにしろ」 思いっきり怒りを込めて階段を上りきった時、誰かがあたしにそう言った。 「…ベラミー……」 声がしたほうを見たら、手すりにもたれてベラミーがお酒を飲んでいた。ベラミーの周りにはもうカラになった酒瓶とまだ開けていない酒瓶ががごろごろ転がっていた。 「何してんの?」 「酒飲んでた」 ソレは見たらわかるっつーの。 「お前も飲むか?今日買ったばっかりのやつだ」 そう言ってベラミーはあたしに向かって酒瓶をぽいっと投げてよこした。あたしはソレを受け取った。ナイスキャッチ。 酒瓶のふたを開けながらあたしはベラミーの側まで歩いていき、ベラミーの隣に腰を下ろした。 それから黙ってぐいっとお酒を飲んだ。前、酒場でお酒の一気のみをしてブッ倒れてそのまま死んじゃったヤツがいたから、少しずつ飲んだ。 お酒はスゴク冷えてて、超オイシイ。あたしはお酒よりジュースのほをよく飲むけど、今日はお酒を飲みまくりたい気分。 「…もー〜〜…今日は飲むわよ!お酒いっぱいあるのよね!?」 「あるある」 ベラミーもお酒を飲み干して、酒瓶をうしろに向かって放り投げた。酒瓶は綺麗な円を描いて、夜の海に沈んで消えた。 あたしもベラミーと同じ様に酒瓶を捨てた。 「…で?またサーキースとケンカか?」 そう言いながらベラミーは、あたしに新しい酒瓶を手渡してくれた。サンキュ、と言ってそれを受け取る。 「違うの!聞いてベラミー!!アイツ、ムカツクムカツクムカツクムカツク!!!もう超アングリー!!!!」 あーもーまたムカついてきた!あたしはいらいらしながらお酒を飲んだ。 「アイツ!サーキース!あたしに新しい服買ってくれるって言ってたの!でも買ってくれなかったの!それでさ、あたしアイツに聞いたのよ!服は?って!そしたらアイツなんて言ったと思う!? あ、忘れてたーって言ったのよ!?信じられる!?しかももうこれで5回目よ!あんなヤツいつかノーランドみたいになっちゃえばいいのよ!!サーキースのバーーカ!!!」 一気に言ったら少しだけスッとした気がした。相談相手がいるっていいことだわ。 「ハハッ!えらく怒ってるから何かと思やァ…そんな理由か」 あたしは力いっぱいベラミーのほっぺをつねってやった。 「ッって!!!!」 「…ジューブンな理由でしょ…?」 「…判った判った…あーそうだそうだそりゃァサーキースのヤツが全面的に悪いな」 「でしょでしょ!?」 ベラミーはお酒を少し飲んで、あたしのほうに顔を向けた。 「――だがまァ…たかだか服だろ?テキトーにそこらの船襲って奪ってきてやろうか?」 「そんなんじゃダメなの!あたしは『サーキースから』もらいたいんだから!」 「…?……服が欲しいんだろ?」 あたしはハーッと溜め息をついた。 「もうベラミーったら…もうちょっとオンナゴコロってモンをわかっといたほうがいいわよ」 「知るかよ。女の考えてることは判らねェ」 「当たり前でしょベラミー女じゃないんだから」 「……ホント、女の考えてることァ判らねェな」 今更気付いたけど、今夜は満月だった。おっきーキレーイ。闇の中にぽっかり開いた窓みたいに輝いてる月を見てたら、あたしのなかのちっちゃな怒りもしゅーんとなってきた。なんかもーどうでもいいやって感じ。 ていうかサーキースなんかのせいでここまでムカムカするのもなんかシャク。 「大分落ちついたか?」 「……うん…。………ねえベラミー」 「何だ?」 「さっき言ってた服、あさってまでにお願いね。ダサイのだったら承知しないから。あと新品の服ね、奪ってきたのはヤだからね」 「…いらねェんじゃなかったのか?」 「さっきまではね。今は欲しいの」 「…あ、そ……」 そう言えばサーキースも必死に謝ってくれてたっけ。許してあげよっかな。あーあたしって優しいなー。 「…明日、サーキースんトコ行ってあげるわ」 「優しいことで」 「イイオンナの条件でしょ?」 「ハハッハ、そうだな!――でも、行くなら今から行ったほうがいいぜ」 笑いながら言うベラミーに、あたしは「なんで?」と聞き返した。だって今日はもう眠いし。寝たいし。 「明日の今ごろ、お前何してる?」 「ハァ?」 思いっきりわけのわからないって感じの顔をしてみせる。いきなり何言ってんの、ベラミー。 「何してると思う?」 「…え〜〜明日ァ?…んー…みんなと飲んでるか、それか寝てる。と思うけど」 「絶対に?100%そうしてるか?」 「えー?うん、まあ」 そう言うあたしに、ベラミーはニヤッと笑った。 「そうか?明日の今ごろ、突然の嵐にあって死んでるかもしれねェぜ」 酔いが覚めた。いきなり何を言い出すんだこのひとは。 「……何ソレ。予知能力?」 「ハハッハハハ!そんなモンいらねェよ!例えばだよ、例えば」 かなり物騒なこと言ったくせに、楽しそうにベラミーは笑った。 「未来のことなんざ人間は知れなくていいんだよ。それが例え10秒先の未来だろうとな。おれが言いてェのは今やれることは今やっとけってことだ」 「それと嵐がどう関係あるの?」 「だからそれは例えだって。未来に”絶対”なんて存在しねェんだ。1秒後の未来すらおれ達にはわからねェ。未来なんて不確かなモンをどいつもこいつも信じてやがる。唯一確かなのは、”今”だけだっていうのによ」 ・・・ハ〜〜……なるほどねぇ。 確かにそうだわ。未来って、なんてあやふやなモンなんだろ。なんだかまたひとつオトナになったって感じ。 「ベラミー頭イイ…」 「良くねェよ」 そう言って、少しはにかんだように笑うベラミーを見て、あたしは思った。 やっぱりベラミーはあたし達と違うな、って。 なんて言ったらいいのかな。あたし達がバカ騒ぎしてる時とか、ベラミーはみんなより一歩下がったところで、冷静に楽しんでる(なんか変な言い方だけど)。 今言った未来のこととか、あたしなんて考えようと思ったことすらないことも、ベラミーはちゃんと考えてる。 どこか、孤独な感じのするコ。 なんて、あたしにしては珍しく真面目なこと考えてぼーっとしてたら、ベラミーが立ちあがった。 「さてと…おれァもう寝るけど、お前はどうする?」 あたしはん〜…と少し考えた。あんな話聞かされたらねぇ…… 「…サーキースの部屋行く」 「へェ、行くのか」 「ベラミーが行けって言ったんじゃん」 「ハッ、それもそうだ」 あたしも立ちあがった。 空の酒瓶が2、3個ごろごろしてたんで、蹴って海に落とした。 「――そういえばリリー。もしもサーキースがお前を捨てるようなことがあったら、お前どうする?」 「2度と立ち直れないぐらいの精神的いやがらせをしてボロボロにしてあたしみたいなイイオンナ捨てたこと後悔させてやる」 迷う間もなく笑顔で即答したあたしを見て、ベラミーは目を丸くさせた。 「…ハハッハハハハッハハハ!!!リリー!お前ホントイイ女だよ!サーキースにゃ勿体無ェな!ハハッハハハ!!」 「ちょっとベラミー笑いすぎ」 それにね、とあたしは言った。 「あたしアイツに捨てられてやんないわよ。あるとすれば、あたしがアイツを捨ててやるの」 「ぷっ」 またベラミー笑い出した。これだけ騒いだら、いい加減他のミンナも起きちゃうかな。ま、いいや。 「…あー、笑った笑った。全く、強ェ女だ」 階段の手すりに手をついて、あたしは言った。 「まーね。海賊だから」 うわ、なんかベラミーまた笑ってるんだけど。あたしそんなに笑えること言った? 船長室のほうに歩いていくベラミーに、べーってしてやった。ベラミーの真似。 オヤスミ、って言って階段を降りようとしたら、ベラミーが背中向けたまま片手をあげて言った。 「海賊上等。強く生きていこうぜ、この海を」 あたしは大きな声で言った。 未来のことは予測できないけど、ベラミーがその次に言いたいことは判ったから。 あたしは大きな声で一緒に言った。 「海賊らしく!」 サーキースはさ、危ないことするなって言って戦わせてくんないけど(まあ実際あたしもメンドイから戦いたくないけど)あたしだってそこそこ強いのよね。 そりゃサーキースやベラミーみたいに強くはないけど、そのへんのフ抜けた海賊とか、無礼にもあたしに手ェ出そうとしたそのへんの男を一撃で沈められるぐらいの強さは持ってるのよ、このリリーちゃんは。 弱いオンナより、強いオンナのほうがカッコイイじゃない? なんか、あたしの生き方とか何も知んないクセに、つべこべ言ってくるヤツとかって超ウザイ。 けど、今日のベラミーの話聞いて吹っ切れた。 世界なんて、クソくらえ。 ここにあるだけが、”本当”なんだから。 ま、要は気にしないってことね。 海賊やってて良かったな。だって、フツウに生きてたら絶対、こんなに楽しい気持ち知れなかったもん。 …ん〜〜、で、まあ何が言いたかったかっていうとぉ…… 海賊サイコー! カナ? 以上。 リリーでした♪ | /tr>