こんにちは。
驚きましたか?私から手紙だなんて…初めてですよね。
そして、これは私があなたにおくる、最後の手紙です…多分。
…と、いうよりも、この手紙は私の心の中だけにおさめておくつもりなので、あなたにこれを見せることもないと思いますが。
(だったら手紙なんて書くなって言われてしまいそうですね。本当にそうです。でも、どうしても書きたくなったので)


あなたと出会ったのは、あれは、いつだったでしょう。

あの頃の私は、世の中全てがイヤになっていました。
他人がうっとうしい、自分が嫌い、生きる事が疲れた、でも死ぬのもメンドくさい。
ただなんとなく生きていた、そんな毎日。
ある日、私は親と口ゲンカをしました。
本当になんでもない、くだらないケンカだったんです。
けど私はその日、家を飛び出しました。少しのお金と適当な荷物を持って。
両親に何も言わず、書置きのひとつも残さず。
未練?ありません。
とってもつまらないところだったんです、私が生まれたその島は。
冗談みたいにつまらない、人、町、島。そして両親。
帰りたいと思ったことなんて、1度もありません。

そして私は、何の目的もないままに、色んな島の色んな街をフラフラとしてました。
もうお金もなくなって、最後のお酒を飲もうと立ち寄った小さな酒場。

――そこで、あなたと…あなた達と、出会いましたね。
(たしかあの時、あそこにいたのはあなたと、サーキースと、リリーちゃんと、リヴァーズだったと思います。だから私は5人目の船員ということになりますね。
それがどうしたって?いえ、「5」ってなんとなくキリのいい数字で嬉しくなったので)
あなたの服装を見て、海賊だ、ということがわかりました。
でも、海賊だということよりも、私は、あなた達の楽しげな姿に心奪われました。
店の奥で、とても楽しそうに笑いあってるあなた達の姿を見て、私は、本当に本当に、『うらやましい』、そう思いました。
どうしてそんな顔で笑えるの?とも。
お酒を注文することも忘れてあなた達を見ていると、あなたが私に気付き、目が合いましたよね?
普段の私なら、誰かと目が合ったら、急いで目をそらすか、うつむくかしていました。
けど、あの時、あなたからは、目がそらせなかったんです。
あなたは席を立って私のそばまで来て、まっすぐに私の顔を見て、こう言ってくれました。
「ついてくるか?」
…何故でしょう?
あの時、その言葉を聞いて、涙が出たんです。
あの時私は、確かに泣いていたんです。
(泣いている事がバレないように必死でしたよ。でももしかしたらバレちゃってたかな?)
嬉しかったのか、驚いたのか、それともその両方か、もしかしたらどちらでもないのかも。
何年ぶりの涙だったでしょう?
今でも私は、あの時どうして涙が出たのかわかりません。

そして私はあなた達の船に乗り、それからひとり、またひとりと仲間が増え、今のみんながそろいましたね。
騒がしくて、楽しいみんな。


あなたは気付いてましたか?
気付いていないほうが、私にとってはありがたいんですけど。
私、あなたのことずっと見てたんです。
初めて出会った時から、ずっと。
たたかっている時、お酒を飲んでいる時、みんなと話している時、笑っている時のあなた。
全部、知ってます。
あなたには、人をひきつける、大きな何かがあります。でも、ソレとはちょっと違うみたい。
どうしてでしょうね。あなたから目が離せないんです。
これっておかしいことでしょうか?


――――あなたがこの海へ…グランドラインへはいると言った時は、とても驚きました。
どんなに名の知れた海賊でも、このグランドラインではたちまちのうちに命を落とす、なんていう話は私も耳にしたことがありましたから。
私だけじゃなく、他のみんなも驚いていました。
でも、反対する人なんて、ひとりもいませんでしたよね。
だって、あなたはこの船の船長ですもの。私達の、自慢の船長。
あなたが大丈夫だと言うなら、本当に大丈夫なんです。
あなたがやると言うのなら、なんだってやる、なんだってやれる。
不思議な安心感がありました。
他のみんなも、きっと同じ思いでした。
あの時あなたは、私達にただひとこと、「ありがとう」とだけ言いました。
あなたの口からそんな言葉が出るなんて…正直、ビックリしちゃいました。
それから私達はノースブルーを離れ、リヴァース・マウンテンを登り、そして……

そして今、私達はこの海で生きていますね。
この海、本当に色んなことがあります。
人も、村も、町も、国も、島も、天気さえも、私達の生まれたあの海とは大違い。楽しい。
でも、それらのどれよりも、今私がこんなに楽しく毎日を生きれるのは、あなた達のおかげです。

ねえ、私、あなた達と出会えて、変わりました。
今まで退屈でたまらなかった世界が、ウソみたいに楽しいものになったんです。本当に楽しい。
照れくさくって、面と向かってなんかとてもじゃないけど言えない言葉ですけど、
あなた達と出会えて良かった。
今まで生きてきたなかで、それが1番のシアワセです。

…なんて…。恥ずかしいです。手紙じゃなかったら、絶対こんなこと言えません。
私何を書いているんでしょうね。でも、私の本当の気持ちですから。


ちょっと長くなりましたね。
今の私の思いをまとめたので、なんだかごちゃごちゃしたモノになっちゃいました。
手紙を書くのなんて、初めてだし…
ここまで読んでくれて、ありがとう。

最後に、私のワガママなお願い。
あなた達と、これからもずっと、一緒に生きていきたい。
そして、あなたはこれからも…









「――――……」
そこまで書いて、ミュレはペンを走らせるのをやめた。
その続きを書こうかどうしようか迷うように、ぐるぐると宙に何か書いていたが、溜め息をつくとペンを机においた。
それから、自分の書いた文章を、目で追う。
全て読みなおし、ミュレはあごに細い指をあて、少し考えこむ様子を見せた。
くしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てようと、手紙を手に取ったが、やはり思いなおし、手紙をふたつに折りたたんで読みかけの本の間に挟んだ。
イスに背中を預け、少し伸びをした。
誰かが部屋の前に近づいてくる足音が聞こえ、ドアがノックされた。
顔を覗かせたのはマニだった。
「あら、マニ…なあに?」
「ミュレ、今ヒマしてるのなら下のカフェテラスに行かない?みんなも行っているみたい」
いいわね、とミュレは立ちあがり、マニと一緒に部屋を出た。
「そういえば、リリーちゃんは?一緒じゃないの?」
「リリーちゃんは今町に行っているの。サーキースやベラミーと一緒に」
「あら、いつの間に」
「あなたが部屋にこもっている間に、よ」
フフ、とマニは笑った。
「ミュレ、部屋で何してたの?」
「ああ、別になんでも…それより、早く下にいきましょうよ。せっかくの貸し切りなんだから、遊ばなきゃ損よ」
「ミュレ…ごまかしたでしょう」
「やだ、違うわよ。ホラ、早く!」
なおも何していたの?と尋ねてくるマニの背中を押しながら、ミュレは歩いて行った。
あとには廊下に響く、彼女達の楽しそうな笑い声が残った。












あなたはこれからも、私達の前に立って、私達を導いていってください。















☆なじ☆
なんつーかコレミュレさん→ベラミーというよりも、ミュレさん→ベラミー海賊団みたいになっちったような!
なんというかですね、幸せな感じだけど、
このあとベラミーがどうなるか知ってる私達にとってはなんっかこう「あー…」みたいな切ない感じ(どんな感じだ)になるような話が書きたかったんですが…
あ、そういや「いつの間に」って変換したら「いつのマニ」ってなりました(爆笑)。
あとリヴァース・マウンテンってリヴァーズとよく似てて打っててトキメキました。



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