花のニオイで目が覚めた。    甘いニオイ。



   この船、花なんか置いてたっけ?またサーキースが無駄金使ったのかな。
 あー、眠いし頭イタイ。昨日飲み過ぎちゃった。
 そう思いながらゴソゴソとベッドから這い出した。まだボーっとした頭で髪を掻き揚げた。
 こういう朝はさっさと外へ出て海を見るのが一番。潮風とキレイな海は頭をハッキリさせてくれる。
 あたしは朝の海が一番好きだった。
 と。そこまで考えてやっと思い出した。
 そうだここ船じゃないや。ホテル貸し切ってたんだった。
 いっぱいお金払って。なんかもったいない。そんなに大したホテルでもないのに。酒場もクサイし汚いし。
 ・・・ま、いっか。この島での遊びはそれなりに面白い。
 かたい床に足をおろしながらあたしはその辺に放ってある下着を探した。
 やべ、昨日から着替えてないや。ここサーキースの部屋だから替えの服もないし。しょうがない。
 とりあえずこれ着といてあとで着替えよっと。汚いのキライ。
 シャツとズボンまではいてから、ベッドの脇に置いてあった花に気が付いた。
 白い花。フワっとした大きな花。
 そっか、さっきの…これのニオイだったのか。全然気が付かなかった。
 花に気がついたついでに、まだグーグー寝てるサーキースにも気が付いた。
 壁にある時計を見ると11時。…ハア、起こさなきゃ。
 「ヘイ、サーキース!朝よ、起きて!」
 「・・・んー…ぅるせーな……」
 まったく、サーキースったらいっつもこれだ。
 起こしたら怒るし、起こさなくてもあとでブーブー文句を言う。
 あたしとしてはあとで文句言われる方がウザイので、確実に今、起こす。
 「サーキース!」
 「・・・・・」
 このやろ、シカトか。髪の毛引っ張ってやろうか。
 サーキースの上に馬乗りになって、髪をひっつかもうとした時。

 グイッ。

 「!」
 「…グッモーニン、リリー」
 ・・・つくづくコイツはキザだと思う。
 「…目ぇ覚めた?」
 「お姫サマのキスでバッチリ」
 「いいからさっさと起きろ」
 思いっきりドスのきいた声で。頭イタイから今朝のあたしは機嫌が悪い。
 「なんだ、リリー。怒ってんのか?」
 「そう思うならこれ以上あたしを怒らせないように早く起きてくんない?」
 「そう言うなよ。おれ今日も酒場まわんなきゃいけねーんだよ。もう少し寝らしてくれ」
 「・・・またオンナ引っかけにいくの?」
 この島に来てから一週間ぐらいだけど、サーキースったら毎日これ。ちょっと顔が良くて金もってる
 からって、オンナノコに声かけまくって・・・あたしだけじゃ不満ですかっつの!
 「え!?いや…引っかけるっつーか、新時代に見合いそうなルーキーがいるかもしんねだろ。
  なにしろこの島は毎日秒刻みでケンカとか起こってるから、良さそうな奴を見つけやす…」
 「じゃあ何で男には声かけないのよ」
 「いやおれ男に興味ねえし」
 「やっぱナンパじゃん!」
 「あ」
 もうキレた。
 人間、理由もなくムカつく時がある。今のあたしがそれ。いや、理由はあるんだけど。
 フダンは、まったくしょーがないなーぐらいのヤサシイ気持ちでいてやってるけど、ムカムカが頂点にきた。
プラス頭がイタくてキゲンが悪い。
 「もうフザケんな!いい加減にしてよ!何!?あたしじゃ不満!?それとももう飽きた!?
どっちにしろこれ以上新しいオンナ作ったら、あんたとはもうサイナラよ!」
 「っちょ、ちょっと待て待て待てリリー!落ち着け!」
 「うっさい!!ハイ、どうなの!?約束できる!?」
 「…あー……無理…かな」
 ドゴ!!!
 「って!!!蹴るかフツー!」
 もうコイツ…!(前から判ってた事だけど)サイテ―!!
 「あんたにとって私は何なのよ!?」
 こんなサイテイヤローにここまで必死になってるあたしも何なんだろー。
 チクショウ、あたし何でコイツのこと好きなんだろ。
 もー、涙までてきちゃったわよ。
 「リ、リリー!?」
 さすがにサーキースもビビったらしく、焦ってる。涙は女の武器。
 「答えて」
 ガっとサーキースの肩をつかむ。服着てたら首元引っつかんでやんのに、今裸だし。
 サーキースは何も言わない。あと10秒で答えなかったらホンキでバイバイだわとか思ってたら、
 サーキースは腕を伸ばして脇にあったあの白い花をとった。
 「リリー」
 そういってあたしの目の前に花を差し出した。
 「・・・何よ」
 「花の名前」
 「は?」
 「この花の名前。リリーだ」
 …何をイキナリ。
 「カワイイ花だろ?お前みたいに」
 「…アナタの言いたいこと私にはまるでわかりませんが。ソレがあんたの答え?」
 「まあ待てよ。リリーにはもう一つ意味があるんだよ。知ってるか?」
 「……知らない」
 バカのあたしに聞くなっての。悔しいことにサーキースはモノも知ってるし、頭もいい。
 
 「救いの象徴、だよ」

 ポカンとした。
 救いのショウチョウ?あたしの名前にそんなご大層な意味があったとは。
 花の名前ってことすら知らなかったし。
 「…で。ソレが何なの?」
 「言葉通りだぜ。おれにとってのお前」
 そういって、サーキースはその花をあたしの髪に挿した。
 あの甘いニオイが、とても近くで感じられる。
 「おまえがいなきゃおれはやってけません。これからもずっとおれといて下さい。
  死が二人を分かつまで」
 

  …キザヤロー。
  ジコチュ―だし約束あんま守んないしすぐ浮気するけど、

 「……ばっか」





     これだから、あたしはコイツが好きなんだ。











☆なじ☆
この二人の性格さっぱり判ってないのに(これ書いた時点で第225話”人の夢”まで)、 書いてしまった自分の無謀さに拍手。サーキースは誰だコレ(爆笑)。
・・・あの二人って世に言うカレシカノジョじゃないんですか。いやだってあれ肩組んでたし。
サーキースが酒の飲みすぎで足ふらついてたからリリーが肩かしてただけですか。
…まあいいや……人の夢は止めることのできないものさ……。
                                    

*えり*
なじ様有難うございます。大変感謝しております。肩でもおもみ致しましょうか。いやもう本気で感謝しております。身近にこんなスッバラシ―ものを書いて下さる方がいらっしゃるって何て素晴らしいことでしょう。あの二人が初登場した時点で速攻サーリリにハマッたわたくしの戯言を聞いて下さったことにも感謝しております。
何か私これ読み終わった時、顔真っ赤だったらしいですね。拝読してる最中もずっとにやけっぱなしでしたが。
あのサーちゃんとリーちゃん、すっげー仲良しだから肩組んでただけなのかもネ☆
有難うございましたァ―――ッ!!!


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