時折吹いてくる風が肌にふれて心地よい。
白い海を眺めていると、相棒フザの鳴く声が耳に届いた。
「どうした、フザ」
雄大な翼を力強く羽ばたかせ、絡み合う大樹の枝をくぐりぬけてフザが昇ってきた。
自分が立っている枝にフザも止まり、一鳴きした。
フザののどの辺りを撫でる。
「…あァ、また侵入者か。…行くか、フザ」
彼を背に乗せ、フザが飛び立つ。枝がかすかに揺れた。
フザの背に乗り感じる風は、先程までの穏やかな風とは比べものにならなく冷たく、鋭い。
シュラはこちらの風のほうが好きだった。この風が一番好きだった。
強い風に目を細め、ゴーグルをかけた。
眼下、遥か下に広がる海にある島に目をやる。
彼の方が統べる迷える羊たちはあの海の上に住んでいるのだ。
そして自分は彼らの憧れの地にいる。
しかしそれが彼にとって何か意味のあることだろうか?
彼が憧れるのは大地ではない。彼にとってこの地は領域であり愚か者を消し去る場所だ。
ぐんぐんと高度が下がり、大地が目前に近づいてきた。
すれすれでフザは巧みに体を反らし、地の上を真っ直ぐに飛んで行く。
主人を乗せて、裁かれるべき愚か者がいる場所へと。



「罪はめぐる。その身に背負った業を償え。お前達は今まで他者を犠牲に生きてきた。
この世は全て犠牲の上に作られている、だからそれは至極当然の生き方だ…ただ、お前達にもその番がまわってきたということさ」
罪に与えられるのは常に罰。
その形は多種多様であり、またそうあるべきだった。
彼――”彼ら”の与える罰はおそらく、全ての生きるものが厭うものであり、最上のもの。
神を冒涜する者はそうされて然る可きなのだ。
「何を怯えることがある?お前達は失うんじゃねェ、初めに帰るだけだ。生まれた所、無へと帰れ」
何百、何千。
どれくらいの命をこうやって屠ってきただろう。もう覚えていない。
罪はめぐる。共に、命も。
消えた命が糧となりまた新たな命を生み出すことだろう。
神によって裁かれた後、それに相応しい姿となって。
「裁かれろ」
朽ち果てた肉塊達を見下ろして告げる。
裁くのは自分ではない。高く、遠く、尊き方にその全てを。
”神”という概念の定義は永遠不変のものではなく、移りゆき変わりゆき、
信仰的なものだけでなく日常的に使われるその言葉すら、意味するところは変わってくる。
そして、そう、”神”というものは概念であり存在ではないのだ。
人や偶像などの存在を神と崇めることがあったとしても、それは神の身代わりであってそれ自体が神そのものになり得ることはない。
自分たちの”神”である彼もまたそうなのか?
どちらでも構わない。彼の方は自分にとって確かに神そのものなのだ。
頭上にある大樹の枝から葉が一枚、ひらりと舞い落ちて来、横たわる躯達そのひとつのうえに落ちた。まるで弔いのように。
それを見てか、或いは全く突然にか。
シュラは不意にあることを思った。
それはやはり外界の為すこととは無関係で、彼の内界の変化の結果であったのかもしれない。
常日頃胸の奥の奥、遥か深遠に沈殿させていたものが、水中に小石を投げたとき浮かび上がってくる泥のように、水面上へと顔を出したかのようでもあった。
フザが不思議そうに首を傾げて、主人を見た。
シュラは、自分が裁かれる時はいつだろうか、と思った。












☆なじ☆
神官ズの思想というかそういうものがとても好き。
あと今現在コレ書いた時点でエネルまだ3話しか登場してないので色々苦労しました。
今後どんなカッチョエエ所を見せてくれるのか楽しみス☆

02.12.6



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