空部へ行った

※ルーキー学パロです
※より一層妄想全開です
※ルーキー交換日記からの派生SSです
※なので先にこちらをお読み下さった方が話が解りやすいです

空部の部室――といっても一つの独立したテントのような建物で、それは彼らの故郷の家を模したものらしかった――は、学校の敷地内の、不思議な雲に囲まれた場所にある。
「故郷に似た場所を部の活動の場に選んだのだが、部員以外は案内なしでは辿り着けぬような所でな」という部室へウルージに案内され、アプー、キッド、ホーキンスは初めてそこを訪れた。
入り口をくぐり部室へと足を踏み入れた彼らを迎えたのは、
「遅かったな、お前ら」
ふわふわしたキツネを抱えて椅子に座り、のんびりとお茶をすすっているトラファルガー・ローその人であった。
「…………何で、てめェが、いるんだよ」
「おまッ……、何してるんだよ!?」
「これはこれは、ロー、よくぞここの場所が解ったものだな」
蒼白の顔で言葉を紡ぐキッドにアプーそして和やかに受け入れるウルージに対し、ホーキンスはお茶をすする男に一瞥をくれただけで以降は部室内を物珍しげに見回し始めていた。
「おれも混ぜろと言っておいただろう？ ――ああウルージ屋がおれにくれたプレゼントで飲むお茶は実にうまいな」
「まぜねェって言っておいただろうが…さりげなく湯呑の自慢すんな……そしてそれはウルージのプレゼントじゃねェだろうが…」
「皆さま、へそ！」
実に低い声でローの言葉へ突っ込む事に集中していたキッドは、すぐ隣りから響いた可愛らしい声に少し驚き、声の方へ顔を向けた。
ローに気を取られて気付いていなかったが、ローの前にはやさしげな顔をした少女と、活発そうな雰囲気の幼い少女が座っていた。
「私はコニス。こちらはアイサさんです。そしてそちらがスー。皆さまもウルージさんのお友達ですか？」
にこにこと朗らかに話すコニスの話を聞いてみれば、20分ほど前にウルージの友人だと名乗るローがここへやってきたので、３人と一匹で仲良くお喋りしながらウルージを待っていたのだと言う。
「おいあんた――コニスちゃんだっけ？トラファルガーに何か変なことされなかったか？」
「？変なこと……いいえ。楽しくお話をさせて頂いていただけですよ」アプーの言葉にコニスは穏やかに首を傾げ、傍らの少女に問いかける。「ねえアイサさん」
「うん！ウルージのこととか、他の友達のこととか色々聞いたんだよっ。あんた達も後から来るって聞かされてたから、あたいとコニスも楽しみにしてたんだ」
きらきらとした眼でキッド達の顔を順番に眺めるアイサだったが――突然、その表情と身体とがビクリと強張った。
「ウルージ。あの像は何だ？」
「ああ、それはヴァース像といって、恵みの神であり――」
「うあああああああああああああああああああああああああああんッ!!!」
至ってマイペースに会話していたホーキンスとウルージの声が、大音声にかき消された。アイサが泣き出したのだ。
「ど、どうされました、アイサさん！？」
アイサはコニスにしがみつき、声をあげてなくばかり。コニスは戸惑いながらアイサの背中をさするしかない。キッド達も無論事情など解るはずもなく、同じように戸惑いながらその光景を見つめていた。
「ヤハハ、アイサはその金の髪の男が怖いのだよなあ」
突然、天井から声が降ってきた。コニスとアイサ以外の者達がはっとして見上げると、
「…その男から聞こえてくる〝声〟が」
高い高い天井にふわふわと丸い雲のような物が浮かんでおり、その上にひとりの男が座っていた。
部長、とウルージが声を漏らす。ホーキンスは雲の上のその男をじっと見つめそして尚も泣きじゃくるアイサを見下ろした。殆どいつもまばたかない瞳が、一瞬だけぱちりと閉じられる。
そうか、と僅かにだけ開かれた唇が言う。「――お前も解るのか」
「その子は私と同じように“声”が聞こえるからな、あまり怖がらせるんじゃあない……先日――フェアリーヴァースが最も美しい夜に会ったな。ウルージの友人だったのか」
部長は玉のような雲の上からひらりと身を躍らせ地に足をつけた。先程は気づかなかったが、小さなおもちゃの兵隊のような４人をその腕に抱いている。
「そうか、やはりホーキンスが言っていた人物は部長であったのだな？」
ウルージの言葉にホーキンスはこくりと小さく頷いた。
「んん、何だ私の話をしていたのか？」
「そうだ、月の子と…お前と出会った時の話をした……お前の名は？」
「私はエネル。お前はバジル・ホーキンスだな？さっきそこの男が話していたぞ」
そう言って部長は椅子に座っているローを見遣った。どうやらローはキッド達の名から容姿からを、仔細にコニス達に話していたようである。そればかりか要らぬ事まで聞かせていそうだとキッドは嫌な予感がしたが、とりあえずそのことについては考えぬよう努めることにした。
「さて、スペーシーたちは少し降りていろ……アイサ」
部長は腕に抱いていた兵隊たちを地面へとおろし、泣きじゃくるアイサを抱き上げた。
「よしよし、そう泣くんじゃあない、お前はシャンディアの戦士だろう？」
その光景を見るとローは椅子からさっと立ち上がり、「部長とやら、おれもこどもは好きなんだ、おれにも抱っこさせろ」と真顔で詰め寄りかけたが、キッドに暴力的な方法でもって落ち着かせられ、ぐったりと静かになった。
「あァ～悪ィなァ、このおにーちゃんが怖がらせちまったな～」
自身の身体で“演奏”をしてアイサをあやすアプーの言葉を聞いた当のホーキンスが異を唱える。
「あぷー。おれは何もしていない」
「あー解ってる！解ってっけどよ！悪ィがお前しばらく離れててくれ！」
少しだけ不思議そうに首を傾げながらもホーキンスは大人しくアイサ達から離れ――先ほど、部長の腕から下ろされ、やや離れた場所へちんまりと隊列をしていた兵隊達の傍で屈みこんだ。じっと見つめるホーキンスに「何用でしょうか、お客人？」と丸い瞳の彼らがにこやかに応える。
「お前達は……人間ではないな」
「ん？――ヤハハ、解るか？」
コニスやアプーと共にアイサをあやしながら、部長は楽しそうにホーキンス達を眺めた。
「カラクリというやつだよ」
「カラクリ……」
ホーキンスは物珍しそうに小さな兵隊達を見つめ、そのうちの一人を何気なくひょい、と抱きかかえてみた。
「――おい、触るんじゃあない」
途端に部長の声が――先程まであれだけ愉快げに話していた声の調子が、僅かに、だが明らかに低く怒気をはらんだものとなった。ホーキンスは感情の動かぬ顔で部長を見る。
ほんの少しの間、部長を見つめ、すぐに抱き上げた一人をそっと地面に戻した。「お前の大事な者か。済まなかった」
「ヤハハハ、結構！客人に手荒な真似はしたくはなかったからな――そろそろアイサも泣き止んできた事だし」
部長はまた愉快げな声になり、アイサを地面へ下ろした。そして兵隊達に向かって手招きをし再び彼らを抱え上げる。
「……はァー、ホーキンスが珍しく素直で良かったぜ……」
「うむ、私もヒヤリとしたものだったが……」
アプーとウルージが胸をなでおろしつつこそりと囁きあっていると、ぽつりとキッドが言った。
「……〝手荒な真似〟とやらも拝んでみたかったがな」
アイサはしゃくりあげながらも、ごしごしと涙をふいていた。
「アイサさん、落ち着かれましたか？」
「ヤハハ、もうあの男と仲良くできるかな、アイサ？」
「…う～～～…」
アイサはまだ少し怯えた様子でホーキンスをちらりと見たが、渋々といった様子で頷いた。
キッド達が部室を訪れて初めて、やっと幾らか落ち着いた雰囲気となったので、改めてウルージが部長達に彼らを紹介し始めた。その時ふと部長が、
「――おや、ガン・フォール達が帰ってくるようだぞ」
まだ少しぐずついていたアイサもパッと顔を輝かせ、「あっ、ラキ達もだ！」
彼らの言葉通り、外からどやどやと大人数が入ってきた。畑仕事でもしていたのか泥だらけの者達、買出しに行って来ていたと見える者達、すぐそこで鉢合わせしたらしく和気藹々とした会話を交わしながらの帰宅だった。
――と、彼らの中で一際目立つ空気をまとっている赤毛の青年が、こちらにはたと気づき――瞬間、赤い鬼のようにその長髪が逆立った。アイサの表情が再びびくりと強張る。青年はくわえた煙草を噛み潰しながら荒々しい動作でやって来る。
「貴様エネル……！アイサ達から離れろ！おれがいる時はここへ来るなと何度言えば解る!!」
詰め寄られた部長は耳をほじりながら、「仕方ないだろう……私は今日お前がいるとは知らなかったんだから」
「抜かせおれが水遣りしてたカボチャ畑はすぐそこの裏だ、マントラで解ってただろうが！」
「よさんか、ワイパー」
泥の付いた作業着をまとった老人が、赤毛の青年――ワイパーを穏やかに、しかしぴしゃりとたしなめた。それを見た部長は上機嫌そうに笑う。
「ヤハハ、ガン・フォールの言うとおり！客人も来ているのだぞ？」
その言葉にワイパーは、初めて気づいた様子で『客人』達に目をやった。「…誰だ、こいつら」
訝しげな様子のワイパーに、ウルージとコニスが簡単に紹介をしてくれた。キッド達もそれで他の空部の面々――ワイパー、カマキリ、ゲンボウ、ブラハム、ラキ…そして顧問のガン・フォールとその愛鳥ピエールを知ることとなった。ガン・フォールは、客人をかぼちゃジュースでもてなそうと言って、ピエールと共にまた外へと出ていった。
紹介が終わって間もなく、わっ、とラキが酷く驚いた声で悲鳴を上げた。
「ちょっと……そこの椅子にいるのは――!?」
「――あ」キッド達が思い出したように口を開ける。「しばらく静かだったから忘れてたぜ……」
先ほどキッドに落ち着かせられたローである。椅子に座ったままぐったりと天井を仰ぎその口はやや開かれている。どう見ても尋常ではない状態だったが説明が面倒だったキッドは「あいつは今具合が悪いんだ」とだけ言っておいた。
「――さて……お前、ワイパーだったな」
「……何だ？」
キッドは改めてワイパーを真正面から見据えた。場の空気が、やにわに緊張したものに変じた。そもそも彼がこの場所を訪れた理由は、これであったのだ。つまり、以前からちょくちょく見かけて気になっていたワイパーの力を知る為、一対一の勝負を申込みたかったのである。
さて、いざその願いや成就せん、という段になりキッドは口を開きかけた…しかし次の言葉を継ぐことをしなかった。
――このワイパーという男……時折校内で見かけ、その目や雰囲気から強い強い〝力〟を感じていたのだが、こうして直接相対してみると、……違う。
こいつは自分たちとは違う人種だ。キッドはそう感じ取った。
自分たちの力は、大切なものを目指し、つかみとる為の力だ。だがこいつの力はそれとは違う…大切なものを守り、受け継いでいく為の力のように感じられた。
そんな男に、〝こちら〟の流儀でもって挨拶するのは、筋違いってやつだな……キッドはそう結論づけ、代わりとなる言葉を用意しようとしていたのだが、無論ワイパーはそんなことなど知るはずもない。
相変わらずキッドとワイパーは対峙したまま、周囲の面々もやや緊張した面持ちでそれを見守り、そして二人の遣り取りに完全に興味のないホーキンスと部長は、一切空気を読まずにカラクリ兵についての話に花を咲かせ始め、それを見てアプーは「こいつら結構気が合うのかなァ」とぼんやり考えていた。
ついにワイパーが苛立ちを含んだ声音で訊ねる。
「…何だと訊いてるんだ、ユースタス・キッド…だったか？」
「――あァ、いや、悪ィ…本当は、お前にサシの勝負を申し込むつもりだったんだが」
それを聞いて、ワイパーはぴくりと眉を上げた。乱暴ごととは無縁のコニスが、キッドの言葉に息を呑む。
「気が変わった。お前、ツラ貸せ」
「同じ意味のこと言ってるぞ、ユースタス」
アプーの言葉にキッドはきょとんと首を傾げた。
「ん？そうか？…じゃあ……お前の力がどんなものか、おれが見てやろうじゃねェか…！」
「いやそれも同じ意味」
「えっ」とキッドは心底意外そうに目を見開く。珍しく狼狽していた。
「じゃあ、他にどんな言い方があるってんだ!? タイマン張ろうぜとかか!?」
「全く仕方ねェなァ、ユースタス屋――友達になろうって言やァ良いんだよ……!!」
お父さんが息子の背中を叩くような、そんなパン！と気持ちのいい音をさせて背後からキッドの背を叩く者があった…先程まで気絶していたトラファルガー・ローその人である。
「！！てめェもう目が覚めやがったのか…って、何だって？今、何か言ったか？寝言の続きか？」
「ふふふ、ユースタス屋は口が汚いからなァ…そこの赤毛のお前」
ローはワイパーにびしりと人差し指をつきたてる。つきたてられたワイパーは、先程から既に目の前の遣り取りが一体何が何だか解らない。
「ユースタス屋はな…お前と友達になりたいんだよ…！！」
ずばーーーんという効果音が聞こえてきそうな、素晴らしく堂々とした発言だった。気のせいだろうか、ローの周囲が輝いている。
「おっとお節介だったな…さあ自分の口でその気持ちを伝えるんだユースタス屋！！」
「黙れトラファルガー!!」
やや赤い顔のキッドが渾身の力で振り抜いた腕を、ローはひらりとかわしそのまま部長が乗っていた玉雲の上に飛び乗った。キッドの手が届かぬ場所から声を上げる。
「照れるなユースタス屋！さァ言うんだ！」
ああそうか仲良くなりたかったのか――やっと得心がいったように頷くアプーの言葉を聞いたキッドは舌打ちをしてワイパーに向き直った。軽く咳払いをする。
「……あー……それでだな、――ワイパー」
口からやっとそれだけの言葉を搾り出した様子のキッドは今までにない恐ろしい顔つきで、まるでワイパーを睨みつけるようにしている。まだ少し顔が赤い。
「え、あ、あァ？」
もう本当に訳が解らないといった様子で頭上のローを見ていたワイパーは、はっとしてキッドの恐ろしい顔に目を向けた。そのワイパーの視線を受けて、キッドは意を決したように口を開いた。
「おれと………飲みに行こうぜ！」
「もっとストレートに言えよユースタス屋ァ！」
「黙れトラファルガー!!」額に青筋を立ててキッドは凄まじい覚悟を決めた顔で言った。「――突然だがおれとダチにならねェか！」
それを聞いたワイパーはいよいよぽかんと口を開けた。よし言った、とローはガッツポーズを取り、ワイパーの仲間達はどよめいた。
キッドの気持ちを汲み取ったウルージが助け舟を出してくれる。
「ワイパー……全く突然の事で何が何やら理解できておらぬと思うが……このキッドが今日ここへとやって来なさったのも、そもそもお主に興味を持っていたからであったのだ。これを機会に交流を始めてみるというのはいかがかな？」
「そうそう、こいつちょっと態度キツイけどよ、根は悪い奴じゃねェから！」
ウルージに続いてアプーも助け舟を出そうと、キッドの肩をぽんぽんと快活に叩いて笑ってみせた。当のキッドは、恐ろしい顔つきのまま拳を握り締め、言った…言っちまった…とぶつぶつ言っている。
そんな彼らの前でワイパーは暫くぽかんとしていたが、ややあって口を開いた。
「よ、よく解らねェが…解った」
と、そのワイパーの言葉を聞いてキッドの表情が明らかにぱあっと明るくなった。彼には珍しい、こどものような表情であった。
「そ、そうか、よかったぜ！」
その声を聞いたアプーが珍しいものを見る目でキッドをしげしげと見つめた。
「お前…相ッ当～嬉しいんだなァ…〝音〟が一気にすげェ明るくなったぜ」
「さァユースタス屋、ちゃんと友達になるという手順を踏んだから、これで次に飲みに行こうという約束ができるぞ！」
キッドは再び雲の上のローを恐ろしい形相で睨みつけた。何でいちいちてめェに言われなきゃいけねェんだよ、とブツブツ言っていたが、先ほどまでより幾分やわらかな表情でワイパーに言った。
「で、ワイパー。早速だが……今日おれと飲みに行かねェか？――お前がこれから何も用がなけりゃで構わないんだが」
「ああ――特に今日は用もなかった。おれなら構わない」
キッドがぱっと笑顔になったと同時に、ワイパーの仲間達からも歓声が上がった。「やったなワイパー！」などとカマキリ・ブラハム・ゲンボウに順番にバンバンと背中を叩かれたワイパーは僅かによろめいた。「な……何だよ、お前ら！」
「だってあんた、無愛想だし、あたし達以外とはあんまり積極的に関わらないだろ？だから心配してたんだ」
ラキが言うと、彼女にひっついていたアイサもうんうんと頷いた。ワイパーがややばつの悪そうな顔になる。
「余計なお世話だ…！」
「それにそのぶすーっとした顔もこわいよ、ワイパー」
ラキの後ろに隠れるようにしてアイサが言う。その言葉にキッドは意外そうな顔を見せた。
「おれはそいつの面構え好きだぜ。気概が感じられる」
途端、ワイパーも意外な顔で、「えっ？」
「え～、外のヤツでそんなこと言うの初めて聞いたよ、ねえラキ！」
「ユースタス屋……お前、友達になるのにはあれだけ手こずったくせに、そんなことは平気で言えるんだな……」
「何だよ、普通のことだろうが？」
何にしろ――とワイパーの仲間達は笑い合った――ワイパーの良さを解ってくれる奴がいるのは嬉しいよ。
そこへ、ガン・フォールとピエールが、お盆に大量のコップを乗せ帰ってきた。
「少々待たせたが、お客人、かぼちゃのジュースだ。美味である」
「おおっそうだ、オラッチこいつが楽しみだったんだよな！」
ひとりひとりにコップが回され、アプーがホーキンスにも渡してやろうとしたが、「ん？ホーキンスどこだ？」
和気藹々とざわめきが広がる室内を見回してみると、先程ローが座っていた椅子で、部長がぐうぐうと寝ている。確か、ホーキンスは彼と話していたはずではなかったか。
視線を移すと、部長の正面の床でホーキンスが静かに正座をし、部長の膝のカラクリ兵達をじっと見つめていた。何だあの状況…と流石のアプーも冷や汗を禁じ得ない。
「…お前…何してんだよ…」
「エネルが眠り出したので、こいつ達を見ていたんだ」
「…いつからだよ…もしかしてずっとか？」
「そう、ずっとだ。トラファルガーが目を覚ました辺りから」
「……楽しかったか？」
「ああ」その長い髪が揺れるほどこっくりとホーキンスは頷いた。「とても」

現在、部室内はより一層にぎやかだ。
目を覚ました部長も再び玉雲の上に座りカボチャジュースを飲んでいる。コニスの弾くハープの音色をとても気に入ったらしいアプーは彼女の傍で一緒に演奏を始めており、ラキの膝に座るアイサがきゃっきゃと手を叩いて喜んだ。
ローとホーキンスはウルージの前に仲良く正座で並び、切り口を入れて貰ったコナッシュを味わっていた。
「ホーキンスは結構独特の味覚をなさっているだろう？コナッシュがそなたの口にあうといいが」
「とてもうまい」
そう言ってこくこくとコナッシュを飲むホーキンスに、ウルージは「それはよかった」とにっこり笑った。
ローがウルージに聞こえるか聞こえぬかの声音で、ホーキンスの耳元でぼそりと囁く。
「…ウルージ屋って、バジル屋の事だけ『そなた』って呼ぶよな。他の奴は『お主』なのに」
「ああ」
「おれだけウルージに丁寧に扱われてる特別扱いだやったーひゃっほー。…って思ってるだろ？」
「思っている」
ちなみに口調とひゃっほーはローの意訳です。
ローが「くっ、ずるいぞバジル屋……!!」と拳を震わせている横で、例によって一切の感情を顔に映していないホーキンスが魔術部の部員達への土産としてコナッシュを数個貰っていた。
部屋の中央で起こる歓声はワイパー達に様々の種類の“ダイアル”を見せて貰っているキッドである。
宝物を見つけた少年のように、輝く目で一つひとつのダイアルに反応している。
そんな彼にローがまたちょっかいを出しに行ったり、部室の裏のかぼちゃ畑とジャイアント・ジャックを見たり、そしてそこに住むウワバミ（空部の仲間らしい）と遊んだりと、そんなことをして彼らは生活指導主任の赤犬が見回りに来るまで時間を忘れて過ごしたのであった。

その後キッドはワイパーと約束通り飲みに出かけた。訪れた店はキッドの友人である〝麦わら〟のなじみの店で、キッドも彼と何度か来たことのある場所であった。
話してみればワイパーも〝麦わら〟とは友人らしく、小一時間ほど彼の話に花を咲かせた。
〝麦わら〟とは長いつきあいであるらしい店主は、「ルフィのお友達と会えて嬉しいわ」と本当に嬉しそうに笑っていた。
その後、故郷の話だとか、仲間の話だとか、この店にはときおり四皇の〝赤髪〟も来るらしいといった噂だとか、そんなことをひとしきり話し、また飲もうと約束をして二人は別れた。
そしてキッドは今、上機嫌で自宅に帰りついていた。
部屋に入って上着を脱いでゴーグルを外し、椅子にどさりと座り込んだキッドの前には、すっかり習慣となった「交換日記」が開かれている。もちろん今日の出来事を書き記しておくつもりだ。
日記を眺めながら、キッドは今日一日を振り返った。色んなことがあったが、まあそれら全てを書く必要もないだろう。
もともとキッドはそれほど仔細に一日の出来事を記したり、情緒豊かに思いを述べたり、緻密に文章を組み立てたりする性分ではないので、今日のことも淡々と手短に書いていくつもりである。
いつものように思い浮かんだことを書いていくか、とキッドは羽ペンをとった。
とりあえずトラファルガーについての話は必要がないから省略しようと決めていた。

えり⇒なじの順で、約５行ずつ（もしくはそれ以上）のリレーでした！
この後こちらの日記へと続きます。
このSSの内容ですが、まあそもそも捏造妄想しかないものなんですが、ちょっと注釈を…

＞バジル屋の事だけ『そなた』

これはもー清々しいまでに捏造なんですが、
「ホーキンスって『お主』よりは『そなた』ってイメージだよネ」という勝手なイメージからくるものですすんません！

あと自分たちで書いておいて何ですが、
キッドさんがワイパーと友達になれたのはローのお陰だというのに、
キッドさんったら恩人に何て態度！という感じですね！
それとカマキリ達をもっと目立たせたかったな～！

長くなりましたが、ここまでお読み下さりありがとうございました！！

11.09.25

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